ビリヤニを食べてホッとした夜のこと
東京都内を少し歩けばカレー屋さんに出会う昨今。
インド料理=ナンカレーが定着。カレーは不味く作る方が難しいので、どこに行ってもそれなりのクオリティが維持されていて、辛ささえ間違えなければ失敗することがないので、チョイスする側も便利だ。それがカレーの良さであり、適当なカレー屋さんが増える要因の一つに思う。まあ彼氏に作るのであればカレーがいいと思うし、食べた彼もそれなりに感動したリアクションを取ってくれるだろうから、彼が手料理を作ってほしいと言ったらカレーを作ることをお勧めする。だって不味くなりようがないじゃないですか。不味かったら不味かったでそれはそれでコンテンツになるじゃないですか。もしくは女子が料理を作ると決めつけているあなたはおかしい! とフェミニスト寄りに暴れるのもそれはそれで面白い。めんどくさいけど。
インド料理屋さんでビリヤニをメニューに置いている店は少ないし、ビリヤニをメインに据えている店はほぼない。メニューの後ろ側に申し訳なさそうに座っている。それがビリヤニ。注文される回数も少なく、出番も少ないであろうから、クオリティは上がらずに申し訳程度のビリヤニが多いような気がする。シンガポールのインド人街で食べる、大きな釜からすくいあげるビリヤニの味にはなかなか出会うことがないのが正直なところ。日本で食べて、もう一歩と感じたことは数知れず。都内のインドカレー屋さんの店員さんのほとんどはネパール人説もあるくらいなので、インド料理であるビリヤニのクオリティを維持するのは難しいだろうし、そもそもインドではナン自体がメインではなく、チャパティがメインですからね。
まあそれはそれとして。
12月の半ばにDRESS編集長の池田園子さんと食事をすることになりました。
場所は駒込のムガルカフェ。池田さんが何度か来たことがあるようで、味に定評のあるお店。
店に入ると早々に青木真也であることを知られてしまった僕。アジア圏でのONE FCの影響力は強いので、アジア人の方が知ってくれているケースはよくある。光栄なことだけど、なんだか恥ずかしい。メニューを見るとなんとビリヤニがあるではないか。それも堂々とメニューの中央にある。多くの店であるとりあえず置いていますポジションではなく、メインにある。これは一大事なので、店主のカーンさんに「youのビリヤニはどうだい」と尋ねる。
カーンさんはその質問を待っていたようにビリヤニへの情熱を語り始める。堪能すぎる日本語でときにボヤキ口調を織り交ぜて。日本でビリヤニはまだまだ認知が低いし、味のクオリティが追いついていない店もあるので、敬遠されている部分もあるけれど、うちのビリヤニは自信があるから、是非食べてほしいと堪能すぎる日本語でボヤキ口調を織り交ぜて話してくれた。
それならとマトンビリヤニを頼んでみた。僕は羊の味が好きで、マトンは加工が難しいので、お手並み拝見の意味も込めてマトンを頼むようにしてる。ビリヤニの登場までそれなりに時間はあったはずなのだけど、カーンさんのビリヤニ話を聞いていたらすぐにきた。体感としては牛丼よりも早くきた感覚で、堪能すぎる日本語の威力を思い知った。
マトンの塊が4つは入っていてびっくりする。価格が1000円なことを考えるとありえないクオリティだ。味もシンガポールで食べたインド人街の味で満足。店主のカーンさんに美味しかったけれども、この値段でこのクオリティを出すのはすごい努力があるのではないかと尋ねると、商売を考えたらもう少し値段を上げたいのだけれど、この味を皆に知ってほしいからとの想いを教えてくれた。
品質にこだわる感覚は僕の格闘技にも同じことが言える。
商売として考えたら、違う手もあるのだろうけれど、品質を妥協せず、自分の思想信念、主義主張を持って格闘技を作ってきた。2020年になって様々なものが変化を迎えている。そこで大切なのは思想信念、主義主張に共感できるかだと僕は考えていて、その想いがあれば大丈夫だろうとビリヤニを食べて、なぜか僕がホッとした。
自分が作るものに悩むときがある。そんなときは駒込のムガルカフェでビリヤニにホットチャイで考えてみれば前を向けるだろう。もしも孤独に押しつぶされそうな人がいたらカーンさん家族と話してみるといい。娘たちと話したら心がほぐれるだろうし、独りじゃないと感じるはず。
と、ここまで書いたのは、実は年始の話だ。
この記事を書いた一週間後に悲しい出来事が起きた。
ムガルカフェは火災の被害を受けて営業停止せざるをえない状況になってしまった。幸いにもカーン家のみんなは無事だったが、火元となった大家さんのご家族にはお亡くなりになった方もいるという。心からご冥福をお祈りします。
今は、まわりの助けもあって少しずつ良い方向に向かっているが、まだまだ問題は出てくるだろう。できることはしていきたいと思う。おれたちはファミリーだからね。頑張ろう。
▶︎ムガルカフェオーナーによるnote記事