格闘家・青木真也×タケナカリー対談「世界で戦うにはスパイス飯は不可欠。青木真也のカレー生活と黒歴史」
このたび、本メディアにて、格闘家の青木真也さんのコラム連載が決定しました! 青木さんはカレー好きでもあり、タケナカリーとは10年以上にわたり、個人的なお付き合いもある間柄。
今回は、連載の第0回という位置づけで、青木さんとタケナカリーの対談をお届けします。
その土地のものを食わない奴は、その土地を知らないのと同じ
タケナカリー(以下、タケ):青木くんとは、たまに一緒にカレー食べに行ったりしてますよね。前回は青木くんに教えてもらったミャンマーレストランの「ルビー」でした。最近好きなカレー店ってどこですか?
青木:大久保に500円で、すごく美味いカレーを食わせてくれるところなんですけど、知ってます? いい意味で汚くて、雰囲気がいいところ(笑)
タケ:あ! 「ベットガット」ですね!? あそこいいですよね。
青木:タイとかネパール、ミャンマー系のカレーが好きですね。重めの欧風系のカレーはあんまり得意じゃないです。体質的にバターにそんなに強くないんだと思う。ダル(豆カレー)やマトン(羊肉)を食べることが多いです。豆はどこ行っても美味いし、牛肉も好まないのでマトン。あとはサグ(ほうれん草など青菜のカレー)。
タケ:サグ! 青木くんは野菜好きだもんね。青木くん自身のローカル攻めな気質がカレーの趣味にも出てると思います。好きがちゃんと統一されてるのがいい。
青木:そうなんですよ、ローカルのカレーは良い。
タケ:海外に行ったときの食事ってどうしてますか? 1年間で海外に行ってるのってどのくらい?
青木:少なくなったほうで、トータル2〜3か月くらいですかね。何でも食いますよ。
タケ:そういえば、海外食で「嫌い」って青木くんが言ってるのを聞いたことないですね。青木くんって、結構好き嫌いがハッキリしているタイプだと思うんだけど。
青木:まあ、どこ行ってもカレーはおいしいですよ。イギリス行ったときなんかは、物価高いじゃないですか。でもインド人コミュニティがあって、カレーだけ安いんですよ。その上、ちゃんとおいしい。
タケ:ちゃんと屋台とか、ローカル店で食べますよね。現地で生活している人たちが食べてるものを。
青木:高級店に行くのはよろしくない。どこ行ってもクオリティ一緒なんだもん。つまんないじゃないですか。
タケ:海外行ったときに日本食を食べたいとかはない?
青木:ないですね。日本食は日本で食べるほうがおいしいから。その土地に行ってその土地のものを食わない奴は、その土地を知らないってことですからね。
タケ:パンチラインが出ました(笑)。
タケ:格闘技って世界中から選手が集まってくるわけじゃないですか。みんな同じように現地の食事を食べてるんですか?
青木:ブラジル人とか、アジア食は結構苦手ですね。出汁をベースにした食事に慣れてないからなんだと思います。
タケ:やっぱり食文化の発展の仕方が違うんでしょうね。そういえば、この間、やっぱりインドは出汁の文化があんまりないってスパイス料理のシェフが教えてくれました。スパイスの風味を楽しむのがインドの料理の原点にあるっておっしゃってましたよ。
青木:スパイスはいいですね。インドネシアとかも米にスパイスを入れる料理が多いですよね。カレーというか、スパイス飯を制するのが世界でやっていくには大事だと思います。やっぱりメシを気にしてる奴は勝てないっすよ。
昔はカレー嫌い。柔道部時代のカレー黒歴史
タケ:ところで青木くんは、いつからカレー好きなんですか?
青木:いまでこそカレーは好きですけど、もともと嫌いだったんですよ。
タケ:えっ、そうなんだ!
青木:中学・高校と柔道部に入ってて、その頃の合宿で出されたカレーのせいなんですけど。思い起こすと、あんな危ないものはないですね…。
タケ:危ないもの(笑)。詳しく聞かせてほしいです。
青木:いろいろあるんですけど、強烈なのは高校3年の長崎での合宿のカレーかな。あの、一般的な普通の家庭で食べるカレーにナスって入ってます?
タケ:ナス? 日本で一般的な、固形のルーから作るカレーに? 無くはないけど、あんまり聞かないですね。
青木:そうですよね。合宿って、めちゃくちゃ走らされたりして、もうメシとか食えなくなっちゃうんですよ。そんなときにカレーが出てきて。とりあえず食うか…って食ったら、「…なにこれ?」って。ナスとかウリとか夏野菜がいっぱい入ってんですよ。「ええ!? なにこれ?」って。焼かれたりしてなくて、ただただ、ナスとかウリとかが一緒に煮込まれてて、味が薄いんですよ。もはやカレーじゃなくて、カレーという名の鍋。
タケ:鍋(笑)。
青木:合宿のカレーって最終日に出るのが恒例だったので、もう合宿が終わる喜びの象徴なんですよ。そのカレーに、明らかに残ったであろう野菜などの処理が行われているんですよ。
タケ:カレーだから何でも合うと思って入れちゃったんですね(笑)。
青木:それがもうつらくて。「合宿終わったー。でも、カレーは美味くない。ナスはないでしょ。ウリはないでしょ。こんなん食えねえよ!」って。僕だけじゃなくて部員全員が怒ってた。あの味はいまだに思い出しますね。
タケ:まあ、確かに合宿のカレーって定番ではあるよね(笑)。
青木:カレー嫌いは、カレー自体のせいじゃなかったりもします。これも合宿の話ですけど、最終日とかに父兄が変に気を利かせて差し入れとかしちゃったりして。いやいや、大量のカレーの後に大量のドーナツが待っていたりする。
タケ:強豪校にありがちな、父兄の差し入れ問題ですね。
青木:たしか中学1年の富山遠征だったと思います。そのときも最終日にカレーが出て、食欲なんて全然ないけど頑張って完食したんですよ。そしたら、空気を読めない父兄が、フィレオフィッシュを大量に差し入れしてきたの。「マジか…」って。先輩たちは食べる気なくて、「おい、1年生食っとけよ」とかって言うわけ。もう地獄でした。それ以来、フィレオフィッシュは食えないっすね。で、やっぱりその前に食ったカレーも嫌いになっちゃう。
タケ:ひどい先輩(笑)。まあ、当時は部活の上下関係ってそんな感じでしたよね。でも言われてみると、合宿の食事っていい思い出ないかもしれません。
青木:おかげで、誰かに差し入れするときは、すごい気を使うようになりましたね。荷物や相手の負担にならないかな? とか。それは、あの思い出のおかげなんですよ。
タケ:なんかいい話にまとまりました(笑)。話は戻りますけど、それがどうしてカレー好きに転じたんですか?
青木:インドカレーのナンと出会ったのが大きいですね。進学のために上京してきて、初めて食べたときに「なんだこれは!? 今まで食ってきたカレーはなんだったんだ!?」って、ものすごい衝撃を受けたんです。そのあたりは、このメディアの連載でおいおい書いていこうと思ってます。
タケ:すごい気になってきた。早く読みたい!
場所の必要性。働く意義。新しい価値観とは
青木:CHANCE THE CURRYはカレーのメディアですけど、やっぱり最終的にはカレーを提供できるお店をやるつもりなんですか?
タケ:そうですねぇ。単純にカレー店というよりは、カレーに限らず、カレー皿やスパイスなどのグッズを販売したり、イベントを開いたり。カレーを軸にしてみんなが集まれる場所をつくりたいと思っています。
青木:最終的に場所は絶対必要になってきますよね。僕は格闘技だけでなく、ブログやSNSで発信してますが、【自分の思いが伝わるコミュニティ=場所】の必要性が最近特に上がっている気がするんですよね。一時期流行った「ノマド」は、場所は関係ないっていう考え方でしたけど、これからはその逆。より場所が大事にされているなと。
タケ:集まるという意味では、オンラインサロンはどうでしょう?
青木:いわゆる「奉(たてまつ)る」感覚がちょっと違うかな。参加者に良い面、楽しい面だけを見せて憧れを抱かせ、それを商売にしているところも、僕の目指す場所ではないですね。そうではなく、【コミュニティ=わかる奴らで集まる】みたいな感覚というか。
タケ:価値観を共有できるかどうかが重要なわけですね。
青木:そうですね。価値観でいうと、社会全体の価値観も変わってきてますよね。結構マジな話ですけど、これからは若くて賢い奴ほど働かなくなると思うんですよ。
タケ:なんででしょう?。それは…働くのがムダって気づきですか?
青木:生活に必要なお金さえあれば暮らしていけるのに、なんで苦労して働かなくちゃいけないの? って考えてるんじゃないかと。最近の若い奴らって、社会的立場とか、存在の証明に働いてる感じで、高い車乗ってたり、高くて美味い飯食ってたりしませんよね。
タケ:言われてみれば、40代前半の人ですらそういう傾向があるかもしれない。確かに、決まったお金でどうやって楽しく生活していくかを考えるほうが幸せかもしれないです。
青木:自分が好きなことやるとか、人ができなかったことをできるようになるとか、そのほうが「豊か」だよね? という風潮になっていくんじゃないかと思う。ただ金稼ぐ、ただ会社をでかくするために頑張るっていうのは、ちょっと違うんじゃない? って。最近、知り合った35歳くらいの医師の方にに「青木真也の血液検査ができて嬉しい」って言われたんです。医療法人を経営していて、金だって相当持ってるはずなのに、そんな人でも僕のことをうらやましいと思ってくれている。
タケ:青木くんみたいに自分の好きなことをやっていくと、そういう価値が出てくるんですね。
青木:「成り上がってやるぜ!」とか言う奴にも、一切口を出すつもりはないよ。ただ僕自身は、好きなことやって、人ができないことをやって、ほらオレは楽しいだろ? って証明をしたい。そうなったほうが、結果的にみんな応援してくれるし、面白いんじゃない? ってことを。
タケ:3・31の両国での試合後にも言ってましたね。僕もカレーを軸に楽しいことをやって、周りを巻き込んでいきたいと思っているので、だから青木真也を応援したくなるんだろうな。
ムダを削ってストレスをなくす。青木的ミニマリズム
タケ:青木くんって、格闘技界の中でも超異端と位置付けられているじゃないですか? 僕としては、青木真也は「ひとり株式会社」だと思ってるんですよ。マネージャーもいないし、試合や執筆のスケジュール管理も一人で全部やる。良いと思ったら新しいものも取り入れるし、ムダは切り捨てる。その機動力と風通しの良さが、とっても会社的だなって。
青木:ストレスを溜めないためにも、ムダを削るのは大事ですね。僕いま一人で暮らしてるんですけど、本当にムダが無くなった。
タケ:それは気持ちがいいことですか?
青木:人と暮らすってことは、「なんでそんなムダなことすんの?」ていうのの繰り返しなわけです。でも一人だと、すごいシンプル。どちらの服を着ようかと迷うんだったら、片方を捨てる。
タケ:迷ってる時間がなくなったんだ。
青木:そうですね。他にムダなことといえば、賞状とかメダルとか。何一つ意味ないじゃん、鉄の塊もらって。過去の栄光に酔いしれるのってクソダサい。1ミリも興味ないですね。
タケ:確かに青木くんは、過去を振り返らないタイプですよね。欲しくてやってるってタイプの人もいるからなあ。
青木:なんか意味あるのか?って思っちゃう。こういうこと言うから、変わってるって言われるんだけど(笑)。
タケ:でもそのおかげで、青木くんに軽々しく仲間意識をおしつけたり、変に同調してくる人っていないでしょ?
青木:ヤケドするからでしょうね。最近は、すごく仕事しやすい人と、超仕事しづらいって人に分かれます。お互いの信頼関係ができていればOKだし、どんなに条件のいい仕事でも、関係がないままで一時的に搾取されるだけだったらやめようって思う。ちゃんとやってる奴には、ちゃんと答えたい。こういうミニマリストな世界観を推したいですね。
タケ:世に言うミニマリズムじゃなくて、青木的ミニマリズムですね。今後はこういう話をどんどん書いてもらいたいです。もちろんカレーの話も!
青木:押忍。よろしくお願いします!
取材協力:ストン
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