恵比寿の昭和カレー。隠し味は炊事場の人間交差点
恵比寿は「こづち」にて『カレーライス 中 に豚汁』を。
変化しないという強さ。
寒波迫る東京。吐く息の白さは濃く、雪も残る。まるで北国のようだ。こんな日は肩を寄せ合ってカウンターでモゾモゾしながらカレーを食べるのがいい。
恵比寿で働いていたのが25歳の頃だから、もう10年以上も前になる。キッチン、と呼ぶよりは明らかに「炊事場」の方がしっくりくる店だ。年季の入ったカウンターに詰めて座る。働く人間は何人か変わったけれど、笑いと怒号が飛び交う炊事場の雰囲気は変わっていなかった。きっと昭和の時代から、このまんま。
もちろん、今の僕はカレーを注文するのだけど、当時はよく牛バラ定食を頼んだ。肉と、白米と、御新香を一緒に頬張るのが幸せだった。懐かしい。同僚の愚痴もよく聞いた。
物想いに耽っていると皿が運ばれてきた。築地の中栄を仰いでいるような、でも、どこか家庭的な、そんなカレー。ちょっとだけトロミがあって、牛肉の切れ端なんかが入っていてる。無駄なく食材を使うようにこしらえているのだな。味が濃くないのもいい。
豚汁は白味噌で、しっかり出汁が効いている。円やかだ。たくさんの野菜で作るから、その旨味がたっぷりと一杯に沈んで、豚バラ肉と高めあう。こんなに美味い豚汁はそうそうお目にかかれないな。
目の前で眼鏡の兄ちゃんが、また注文を間違った。まとめ役の女将さんが怒る。奥で揚げ場の若いのが、唐揚げを出しながら笑った。
訪問日