日本一のカレー(後編)
人は都合の悪いことや嫌なことは忘れるようにできている。
悪気があるわけではなく、人の防衛本能として、生き抜く知恵として臭いものには蓋をして生きていきます。都合の悪いことは後回しにしたり、なかったことにしたり。逃げではなく人の知恵。そんなことを改めて感じた「日本一のカレー」の話です。
熊本に「洋食の店 橋本」という洋食屋さんがあります。熊本中心街の入り込んだところにある老舗。
熊本には縁があって友人知人も多く、仕事で呼んでもらえることも多く2021年は2回目の遠征です。今回は友人の三浦崇宏さんと鬼澤信之さんが熊本までプロレス観戦に来てくれていたので、ランチでも一緒にと指定された「洋食の店 橋本」まで何の気なしに歩いていきました。場所が分かり難いんだよな。
店に遅れて到着して、注文を急かされて、カレーを注文。こういうときにカレーは便利です。
今年38歳になるおじさんたちがお気楽話をしていると、一度来たことがあるような店の感覚。初めてではないような気がします。思い出そうとするけど、青木真也の防衛本能が必死で止めている。なんだなんだ。先祖がどうこうみたいな話かと思って身構えてしまう。オレの先祖は静岡の農民のはずだ。
首を傾げていたら、ダムの決壊というのか、地滑りのように思い出す。ああ。ここは今や原告被告の関係となった結婚相手の家族ときた店だ。法廷をお借りして、盛大に泥試合を繰り広げている我々ですが、明るい未来を見たときもあったのです。坂口安吾の言葉を借りるなら、恋愛というものは常に一時の幻影であって、必ず亡び、さめるものだということを知っている大人の心は不幸なものだとなる。それでも生きていかなきゃいけないから、38歳のおじさん3人は誠実にお気楽に恋をしたりしながら生きていくんだけど、もう少しなんとかならんかとは常々思います。
注文したカレーがくるまでの時間。まぶたを閉じて、いくつかの場面があったなと思うが後悔が湧きあがってこないのが青木真也らしい。仕方がないとしか言えない。もちろん前向きな意味でだ。過去ではなく大事なのは今なの!とメンヘラ真っ盛りのようなことを言って切り抜けよう。
手際よく来たカレーが抜群に美味しい。三浦さんが明石ガクトさんより紹介を受けてのお店とのことで、「日本一のカレー」の言葉に3人で納得します。僕の忘れたい記憶だとしても一緒に美味しかった記憶まで忘れなくてもいいと思うのだけど、美味しかった記憶だけを残すのも難易度が高いだろうから、そこは仕方がないことで不問にする。人はこういうとこは理屈が合っている。
美味しいものを全国各地で食べているはずの三浦さんが「美味しい」を連呼していて、カレー好きの僕もこのレベルのカレーは食べたことがないと感動でした。鬼澤院長は険しい顔で美味しさを表していてこれも相当に美味しかったのだとお察しします。熊本で何を食べたらいい?との問いにはそれ以来、「橋本のカレー」と即答しています。
もしもこのコラムを読んで行ってくれた方がいたら、青木真也のエピソードも含めて、お連れの方に伝えてあげてください。青木真也の話を如何にお連れの方に面白く上手に伝えるかで二人の未来の明暗が分かれるはずですよ。
洋食屋さんのカレー部門では日本一のカレーです。2021年の夏の時点では間違いなく日本一。
このためだけに熊本に行ってもいいくらいです。熊本サウナには城の湯や湯らっくすがあって、博多や佐賀に抜けてもいいので、ふらっと遊びに行くのにおすすめです。今は緊急事態宣言中なので「いくなよ!絶対だぞ!」とだけ言っておきます。これなんなんですかね。
夏真っ盛り。元気に生きていきましょう。色々あるけど僕はなんとかなってます。